HE IS A 1 - 1/2

 期末のレポートのために大学の附属図書館へ行ったら、敬一先輩に会った。ミントグリーンのシティクロスを押している。
「え、自転車ですか」
「定期失くした」
 てっきり先輩も帰路につくのかと思っていたら、これから閉館まで図書館でバイトがあるらしい。しかも夏休み中ずっとシフトがあるそうだ。
「何それ、俺聞いてないですよ」
「ご、ごめん。話してなかったけど、どうせ実験があって学校来ないといけないから……」
 眉を下げる先輩の顔がかわいかったので、わざと不機嫌そうな表情を演じて強めてみる。更にあたふたとし始めた様子に満足したので俺は笑った。機嫌を取るように口元だけへらりと薄く笑う先輩に、胸がきゅんとした。
「予定空いてる日知りたいんで、後で教えてください」
「わかった。連絡する」
「じゃあ、頑張ってください。俺様子見に来ちゃおうかな」
「恥ずかしいって……」
 ぼそぼそと言って目を逸らす先輩。うん、かわいい。俺は手を振って別れた。
今日の最高気温予報は三十六度。真上から射す日光は、世界の全部を塗りつぶして、コントラストを際立たせる。その鮮やかさが大嫌いなので、俺はイヤホンを着けた。
 二人で初めて過ごす夏休みの計画は、なかなかうまくいかなそうだ。