世界はふたりを殴りにくる - 2/3

 あれ……俺、何してたんだっけ……。
 ちゅ、くちゅ、と水音が響いて、頭が熱に浮かされたようにふわふわする。ぼうっと顔を上げるが、なかなかピントが合わない。
「あ……?」
 視界いっぱいにルイくんが広がる。距離が近くて、身じろぎすると体が見慣れないソファに沈んだ。
 俺はルイくんからキスをされていた。
(え……?)
 なんか、変だ。変だけど……。アルコールのせいで重い頭ではうまく考えられない。息を吸おうとするとルイくんの香水の香りがした。くらくらする。
「はっ、もっと口開けて……」
 呟いたルイくんに下顎を固定されて、もごつく舌を捕らえられる。
「っは、あっ……♡ んぅっ…」
 やんわりと押し倒された。熱い舌で上顎の柔らかな部分をなぞられるのが気持ちよくて、口がだらしなく開いてしまう。
「あ、あ……な、なんで……♡ あ……っ♡」
 どうして、こんなことに……。わからないけど気持ちいい。頭が馬鹿になったみたいにふわふわしてくる。
「先輩、かわいい……」
 耳元に唇を寄せられて囁かれる。それだけで背中がぞくりと粟立った。
「ん……♡ 先輩、すごーく酔っちゃったみたいだから、俺の家で寝かせてあげてたんですよ? っちゅ、ふふ……」
「んう……ちゅ、ぁ……♡ おれ、っ、あ……ふあぁ……♡」
 何度も唇を食まれ、舌を絡められる。熱い。口の中を征服される。息も、漏れ出る声も、唾液のいやらしい音も、全部ルイくんに聞かれている。恥ずかしい……でも、キス、気持ちいい……。
 ルイくんのもう片方の手が服の上から俺の陰部をすりすりと撫でている。それが気持ちよくて身体に力が入らなくて、脱力した脚がどんどん開いてしまう。
「あれ、先輩勃ってる……♡ お酒飲んでムラムラしてきちゃった?」
 敏感な場所をすりすりと責め立てられる。
「え、あっ♡ だって、さっ、さわって……、あ、あぁ……っ♡」
「んー?」
 ルイくんはくすくすと笑いながら手を止めない。ゆるく反応したそこを指で擦る。何これ……。あれ……? でも……。
 頭の中もちんこも気持ちいい……。だめ、何もわからなくて……だめ、なのに……。なんか、変なのに……。
「あ〜っ……♡」
 びくびくと下半身が痙攣する。ほとんど寝転がるようにソファに背を預けて、ルイくんに触られている腰だけが浮いていた。恥ずかしい、恥ずかしいっ……♡
「先輩、服汚れちゃうから脱がすね……」
「はぁっ、やっ……」
「ね?」
「あっ♡ ん、うん……♡」
 汚れるから。前を寛げられる。ズボンが脚からするりと抜き取られるのを、他人事のように眺めていた。
 グレーのパンツには少し先走りが染みていて、顔に熱が集まるのを感じる。
「濡れてるね……♡ 気持ちよくなっちゃった?」
「う、うそっ……♡」
「んふ……慣れてないみたいなのに、たくさん飲んでたから……仕方ないですよ♡ ね?」
 唇を離したルイくんが長い髪を耳にかけて、ピアスがかちゃかちゃ音を立てた。吐息を吹き込むように囁かれる。
 そっか、仕方ない……のかな……。アルコールと脳を溶かすようなルイくんの甘い声色で頭がいっぱいで、何もわからない。
「っ!」
 下着越しに触れられたそこはぴくぴくと震えている。その様子に思わず目を瞑ると、また唇を奪われた。
「ん、んぅ♡ ぁっ♡」
 先走りを塗り広げられるように先端を擦られればもう堪らなかった。気持ちいい。気持ちいい……♡ どうしようもなく感じてしまう。ルイくんの舌が歯列をなぞって、上顎をさする。
「んぅッ! んんっ♡ ふあ……ぁ♡」
「ん、かわいい声……♡」
 下着の中に手が侵入してくる。直接握られて上下に扱かれると、腰が跳ね上がった。
「あっ!? あっ、あっ♡ なんでっ、さわって……!?」
「んー? なんでですかねー?」
 この淫靡な状況に不釣り合いなくらい、機嫌が良さそうに笑いながら続ける。
「先輩も自分でしたことあるでしょ」
「で、でもっ♡ こんな、人に触られたこと、っ♡」
「へえ……」
「ひっ、っ!?」
 少し力を込めて握られる。痛いはずなのに、全身に電気が流れたみたいだった。
「……じゃあ、俺が初めてなんだ? 嬉しいなあ……♡ いっぱい気持ちよくなってくださいね?」
「ああ……♡ あっ、あっ♡ やめっ……♡ うぁ、や……! 変になる……!」
「変になっていーんですよ。セキニン、とってあげるんで……」
 そう言ってルイくんは手を止めて、俺にぐっと顔を近づけた。
「ねえ先輩、俺のこと好きですか?」
「え……?」
「ちゃんと言って」
「あっ、あっ!」
 再び強く握り込まれてもどかしい。苦しくて、頭も身体もぐちゃぐちゃだった。訳もわからないまま、とにかく解放されたい俺は必死で首を縦に振る。
「うん、わかった。でももっとはっきりお願いします」
「すきっ……♡ 好きだからぁ♡ ルイくんのこと、すき……」
「ん、俺も先輩のこと好き………♡ 好きになっちゃった。ねえ、先輩も責任取ってくれますか」
「せ、責任……?」
「うん。俺は先輩が気持ちよくなって……おちんちん大きくなっちゃった責任、今から取ってあげます」
 わざとらしく恥ずかしい言葉選びにますます羞恥心でいっぱいになる。先程までの後輩の彼と、痴態を見られ、下品な言葉で煽られている今の状況のギャップが大きくてくらくらする。
「だから先輩も責任取って俺の彼氏になってくれる? 俺を好きにさせた、責任」
 頭の中はぐちゃぐちゃで、うっとりした表情のルイくんが何を言っているのかちゃんとわからない。脳に直接囁かれるような声にぞくぞくする。責任ってなんだ。でも……あれ……?
「わ、かんないっ……」
「先輩が今きもちいことで頭いっぱいになってるのと同じくらい、俺のことたくさん考えてほしい。ねえ、先輩は彼氏じゃない人とエッチなことするの?」
「し、しないっ……!」
「じゃあ俺が彼氏でいいですよね。俺のこと先輩の一番にしてくれる?」
「わ、わかった……つきあう……」
「やった♡」
 こくこくと頷くと、嬉しくてたまらないといったふうにルイくんの顔が綻ぶ。キャパオーバーの頭でそれを見る。何も考えられなくて頷いてしまった。にこにこ笑う彼と対照的に、何かこれでよかったのだろうかという違和感で頭の中が翳る。
「じゃあいいですよね」
「な、何が……っうぁ!?」
 しかし、少しだけ取り戻した冷静さは再び動き出した彼の手によって失われた。同時に耳元で甘く囁かれる。
「恋人同士のセックス♡ 俺も気持ちよくしてくれますか……?」
またさっきのようにぐりぐりと先端を刺激され、そのまま強く握りこまれる。既に限界は近く、呆気なく弾けた。
「あっ……!」
 だめっ……♡ 出てるっ……♡
 白濁が飛ぶ。腰が浮いて、太腿が痙攣して止まらない……♡
 こんなに気持ちいい射精を知らない。頭は鉛のように重いのに、コントロールを失ったように下半身がびくびく跳ねて怖い。
「かわいいなあ♡ お酒飲んでるのに萎えないですね……♡」
「ひっ……! いまっ♡ 今はだめっ♡」
 射精したばかりの敏感な性器を強く擦り上げられる。頭がおかしくなりそうな快感に生理的に涙が滲んだ。
「やめてほしいですか? 本当に?」
「ほ、ほんとうっ♡」
「でもここ……ほらぁ、パンパンですけど。先輩もシコシコ♡ ってされるの好きでしょう? これくらいなら平気だよ」
「ちがう……♡ 違うからぁ……っ♡」
「違わないよ。先輩のおちんちん、もっとしてほしい♡ って言ってる」
「言ってないっ……♡ そんなっ……んぅ!」
 恥ずかしい言葉を必死に否定するも、遮るように唇を塞がれる。ぬるりと舌が口内に侵入してくる。ルイくんの手は先走りを絡めながら竿全体を扱く。亀頭をぐりぐり撫で回されて、強すぎる快楽に目の前がちらつく。
「はっ……♡」
 ようやく解放された時には、もう息も絶え絶えだった。酸素を求めて荒く呼吸を繰り返す。
「ねえ先輩、俺に触られるの好きですよね? 先輩のこんな姿知ってるの、俺だけですから。俺の前だけにしてくださいね……♡」
 俺を見つめる瞳がますます熱を帯びる。
「ふふ、聞いてます? まあなんだっていいんですけど。先輩、ちゃんと俺のことも知ってくださいね……♡」
 熱っぽい視線で見つめられて、手を彼の下腹部に導かれた。そこは熱く、硬くなっていた。興奮してる。ぞくぞくと背筋が震えて、もはや声も出なかった。
 押さえつけられた不自由な身体も、高速で回転する頭も熱くて重い。乱れた息を整えようと大きく息を吸うとルイくんの香水の香りが胸いっぱいに広がった。それを機に、ぷつんと糸が切れたような感覚をおぼえて急に目を開けていられなくなった。まだ彼が何かを言っていた気がするけど、重力に任せて目を閉じてしまった。
 ああ、眠いのか……。酒、たくさん飲んだもんな……。