ウェルネス - 4/4

 土曜日。休日が不定期ないつきもシフトが入っていなくて、二人で過ごせる日だった。が、いつきは朝、布団から出てこなかった。
 外は雨が降っている。天気が悪いといつも調子があまり良くない。一人分の朝食にラップをかけて冷蔵庫にしまう。
 昼を過ぎて、少し考えてから寝室をノックした。
「ごめん。入るよ」
 返事はない。そっとドアを開ける。
「……いつき。起きてる?」
「……ん……」
 頭まで被っていた布団から顔を出して、こちらを見る目はぼんやりしている。
「大丈夫?」
「ん……兄貴……」
 ベッドに近づくと猫のようにすり寄ってくる。俺の服の端をぎゅっと握りしめて、子どもみたいだった。
「頭痛い……しんどいよ……」
「うん、辛いな……薬飲もうか?」
「……なにもできない……」
「大丈夫。寝てて大丈夫だから」
 重そうに項垂れた頭が再び枕に横たわった。手に手を重ねると少し冷えていた。温めるように握ってやる。
 しばらくぐずぐずと身体を丸めていたいつきが顔を赤らめて見上げてくる。
 ああ、この目は……。
「ねえ、兄貴……しよ?」
 熱っぽい目で射抜かれると、腹の底が灼きつくようにどきどきしてくる。
「手でしてほしい」
「……えっちじゃなくていいの?」
「そこまでできない……かも」
 いつきは弱々しく微笑んで、そして目を閉じた。
 片手を繋げたまま、横たわったいつきの下肢に手を伸ばして、前を寛げる。下着も下ろして、柔らかなそこにそっと手を伸ばした。ゆるりと扱けばわずかに芯を持った。
「っ……♡」
「痛くない? 平気?」
「うん……もっと強くてもへいき」
 言われた通りにすると、硬さが増す。先端からは少しずつ透明な先走りが溢れていて指先に絡みついてきた。それを塗り込むようにして竿全体を擦り上げる。
「あ……♡ んう……」
「よしよし……気持ちいいな」
「うあ……♡」
 根元から亀頭のあたりまで何度も往復させると、いつきは甘い声を上げて身を捩らせた。繋いだ手が汗ばんでくる。
「出るっ、出そう……♡ 兄貴、ティッシュ……」
「ん、このままでいいよ……」
「あにき……ごめんっ、ごめん……!」
 熱いものが手の中で迸って、いつきの身体がビクッと震えた。
 手についた精子を処理しているといつきのお腹が鳴る。
 遅い朝食に付き合おう。

「兄貴ってさ、付き合ってる人とかいるの」
「え? いないけど……なんで?」
「んー……」
 いつきがお茶をすする。
 仕事と日常の往復の毎日は余裕がない。
 それに、兄弟とセックスをする俺が、誰かと恋愛ができるとは思えなかった。
「この前社員さんと少し話して、その時彼女はいないのかって……」
「そうか」
「うん……」
 いつきは何か考え込んでいる様子だった。俺は自分の分のコーヒーを入れて向かいに腰かける。
 しばらく沈黙が続いた後、いつきが笑って口を開いた。
「俺も兄貴も終わってるね」
「……そうだな」
 この家の中では、ただ快楽を求める獣になった気がしている。
「俺は、そういう兄貴のこと好きだよ」
 外から下校をうながす『家路』の音色が聞こえてきた。夕方四時半だ。
 雨はもう止んだだろうか。