(LONELY)NIGHTS

 浴室から出てリビングに戻るとやけに静かで、先輩がベッドに座って膝の上に顔を伏せている。
「……先輩?」
 肩に触れるとその姿勢のままごろんと転がった。
「先輩、寝ちゃったの?」
 先輩の隣に寝転ぶ。顔にかかる髪をどけて、目元を露わにする。綺麗な横顔だった。薄く開いた唇から静かな呼吸が漏れている。
 この人は、どうしてこんなにも無防備なんだろう。
 信頼されているからなのか。それとも、ただ単に馬鹿だからだろうか。
「……先輩」
 先輩は俺のことを信用しすぎている。
「ねえ、起きてくださいよ」
 そっと囁く。先輩は、俺が先輩が思うよりずっと下劣で、薄汚い人間だということを知らないんだろう。
 先輩をもっと俺でいっぱいにしたい。寝ている時も、何をしていても、俺のことを考えてくれていないと嫌だ。そっと肌に指を這わせる。
「……っ」
 ぴくっ、と反応した。首筋をするすると撫でて、指が身体を降りていく。
 服の上から胸の突起の周りをなぞる。指が乳首をかすめると、身じろいだ。
 かわいい。
 もっといじめたい。
「ん……♡ っ……」
 しばらく弄ると、小さい、でも確かに感じているであろう息とともに背中が反り返る。
「……? ……」
 起きるかと思ったが、先輩はまた規則的な呼吸を始めただけだった。眠っていてもその感覚はあるのか、腰がもぞもぞと動いている。唇を重ねた。
「ん……♡ ちゅ、ふっ……んむ……♡」
「ん……」
 舌を入れると応えるように薄く口を開かれる。嬉しい。俺のこと、受け入れてくれるんだ。夢中になって貪った。
「ん……♡ は……っ、せんぱい……すき……」
「んっ……んう……」
 先輩が苦しそうな声を出す。
「苦しいですか?」
「っ……♡ はぁ……はっ……」
「起きなくていいの? こんなところも触っちゃうけど……」
 下半身に手を伸ばす。太腿のあたりを撫でて反応を確かめる。
 先にシャワーを浴びた先輩に俺が貸したスウェットを下ろす。先輩はまだ寝ていた。下着の上から緩く勃起しているそこをそっと握った。
「あ……」
 びくん、と震えた。起きないように、優しく、ゆっくり、刺激する。
「先輩、気持ちいい……?」
 囁いても先輩は答えない。目を閉じたまま荒い息を繰り返すだけ。
 本当に鈍感だ。いつも俺の気持ちがうまく伝わらない。
 だからこうして、身体で覚えてもらうのだ。
 ヘッドボードからローションを手に取る。ちゃんと体温に馴染ませてから、先輩の脚をぐいっと広げた。
 身を捩る先輩を押さえつけて人差し指を挿入する。
「っ……? ぅ……、んっ……」
 それでもまだ眠りの世界にいるようだ。違和感はあるのか眉間に皺を寄せている。
「んっ♡ ん……♡ ふぅ……♡」
 なんでここまでされて起きないんだろう。
 俺が相手だから? それとも俺以外が相手でもこんなに心を許しているの?
 俺だから心を許してくれているのだとしたら、どうしていつもわかってくれないんだろう。
 だんだん腹の底がざわついてきて、勢いに任せて指を増やした。
「あっ……!」
 明らかな嬌声。腰がびくんと跳ねる。
 俺が与える快感を身体に刻み込んで、ずっと俺のことを考えていてほしい。
 ローションをたっぷりと足して、激しく指を抜き差し始めた。
「っ♡ ぅ……♡ ッ……♡」
 ぐちゅぐちゅといういやらしい水音が響く。
「はっ……先輩、こんなにされてるのに起きなくていいの……?」
「ぅあ……っ、……? あ……?」
「……勝手におちんちん受け入れる準備させられてるのに……」
「ん……あ……、はあっ……♡ ぅ♡」
「……もう3本入ってますよ」
「っ……! っ……♡」
「えっちな音いっぱい出てますよ?」
「ん、あ……、っ……〜〜っ♡」
 腰が痙攣している。もしかして軽くイったのかもしれない。でも構わずそこを責め立てた。
「ぅ、〜〜っ♡ っ……! っ……!?」
「あは、起きましたか? 遅い♡」
「っ……? ん、んっ♡ っ……♡ えっ……? あ゛ぁあっ……! なにっ……!」
 先輩は今まで発散できなかった快感を一気に拾ったように背中を反らせて大きく感じ入っていた。全身がガクガク跳ねて、脚が伸びている。
「はっ、はっ♡ なに、なに、してっ……!?」
「……ほんとえっちなこと大好きなんですね」
「や、なんで、ぅあっ♡ おれ、ひっ、俺、寝てたのにっ……♡」
 状況が飲み込めていない先輩の身体を押さえつけて指を動かす。
「先輩が悪いんですよ」
「ひぎっ♡ ぃっ……♡ いた、だめ、抜いてっ……!」
「ダメです」
「あぁっ……♡ うぅっ……♡」
 先輩は顔を真っ赤にして耐えていた。中はきゅうっと締め付けてくる。指に肉壁がうねって絡み付いてくる。
「ううっ……♡ やめて、やめてっ……♡」
 先輩の脚がシーツを掻く。
「どうしてですか」
「っ……ぅ、だって、こんな無理矢理っ……!」
「俺のこと好きなら、受け入れてよ」
「う、ううっ……♡」
「起きてる時も、寝てる時も……俺のこと考えて、いっぱいになってくれないと嫌です」
「あ……♡ あぁっ、はあっ……!」
「どうせ俺みたいな人間のこと好きになってくれないし、そんなの自分が一番わかってて、」
「あ゛ぁっ! あっ♡」
「だから覚えてもらうしかないんです」
「あぁあっ、ぁあ゛ッ♡ やだっ! やだっ……」
 抵抗する先輩の姿を見たら不安と焦燥感に駆られて、言葉とともに指遣いも激しくなった。先輩の身体の負担のことなんか考えずに手を動かした。
 なんでこんなに苦しいんだろう。
 自分のことが嫌いで、だから誰かに好きでいてもらわないと死んでしまう。でも先輩は許してくれるんだ、きっと。
 そうじゃなくても、俺がそうさせる。
 言葉でも身体でもどんな時も応えてほしい。今は自分を使って先輩を絡めとる方法しかわからない。俺は部屋着のジャージを下ろして自分のものを取り出した。
「あ……」
 先輩の怯えと期待が入り混じった視線がそこに刺さる。
 数回擦って勃たせれば準備は終わりだった。先輩の脚を抱えてあてがう。先輩は力の入らない身体を捩って逃れようとしている。
 先端を埋め込む。
「ぅあ……♡ やぁっ……♡ あぁっ……」
「はあっ……」
「あぁ……っ、はっ……♡」
 散々指で刺激されて敏感になった中は柔らかく俺を受け入れてくれた。
「あッ♡ あぁっ、ひっ……♡」
「んっ……」
「っ! 〜〜ッ♡」
 奥まで突き入れて馴染むのを待つ。先輩の中は温かくてきゅんきゅん締め付けてきて気持ちいい。
「あっ、あっ、あ……♡ ぅうっ、」
「はあっ……先輩、動きますよ」
「う、あっ、」
 腰を引く。それを惜しむように絡みついてくる感覚がたまらなかった。
「あぁっ♡」
「すごい……」
「あっ、あぁあ……♡」
 ゆっくりと腰を打ち付ける。
「はあっ、ねえ、先輩、」
「あ、んっ♡ あっ!」
「好きって言って……」
「ひんっ♡ あっ、あっ♡ す、きっ……!」
「っ……ちゃんと言って」
「すきっ、うぅっ♡ ルイくん、すき、あぁあ゛っ♡ んっ、すき……!」
「ん……うれしい♡」
 好きと言われると、俺の輪郭が少しずつ形成されていくような感覚をおぼえて嬉しくなる。
 もっと俺でいっぱいになってほしい。レイプされて、ぐちゃぐちゃに乱される先輩も俺は肯定したい、俺なら肯定してあげられる。腰を動かす速度を上げた。
「ひっ♡ ああぁあ゛っ♡ うぅっ♡」
「っ……」
「あ゛ぁあっ♡ だめっ、なんか、ぅあぁ゛っ♡」
「ん、はぁ……♡」
「ひぅっ♡ あぁ、はぁ……♡」
 脱力して、されるがままになった先輩はぼろぼろと涙をこぼして快感をやり過ごそうとしていた。中は熱くうねっている。
「ひっ……!」
 先輩のものに触れる。びしょびしょになっていた。
「やっ……! 触らないで……!」
「我慢できない?」
「うう……♡ 出ちゃいそうだから……!」
 目をぎゅっとつむって顔を逸らす先輩がかわいい。先端を握り込む。
「ひっ!? い、たっ……♡」
「まだ出しちゃダメですよ」
「あぁっ!」
 射精感が高まっているのに、急所を握られているせいで快感を逃せなくて苦しそうに耐えていた。
「今日はドライでイってください」
「なに……、ひぅっ!?」
 そのままピストンを再開する。
「はあ、あ゛ぁっ♡ あ゛ぁっ……!」
「先輩、イって」
「ひっ、あぁあ゛あぁっ♡」
「ね……、きもちいの我慢しないでください♡」
「やだっ、うぅっ♡ あ゛ぁっ! あっ、あぁッ♡」
「……先輩、訳わかんなくなっててかわいい……♡」
 絶頂に向かって激しくなる律動に合わせて、びくびくと中が痙攣している。
「あぁあ゛っ♡ やあっ♡ もうっ……!♡」
「はあっ……♡ 俺もっ……♡」
「あっ、あ゛ぁッ〜〜!!」
 先輩は背中をしならせて達した。先端からは何も出ていなくて、鈴口が切迫したように収縮しながら透明な液体を漏らすだけだった。
 ちゃんと俺の言うとおり、ドライでイけたんだ。先輩はえっちなことを覚えるのが早くて、染まりやすくて、かわいい。
 中は精を搾り取るようにいやらしく動く。今日はゴムをしていなかったので、中に出してしまった。
「はあ……♡ はっ……、ぁ……♡ うぅう……♡」
 先輩はまだ絶頂の余韻に浸っていて、身体はぴくっぴくっと震えている。俺のものを抜くと白濁がこぼれた。
「あ……なかっ、なか……に……」
 先輩が掠れた声で呟く。
 先輩の中に俺の精液があって、それが繭の糸のように俺たちを癒着させる。いつか溺れるくらいその糸が増えていけばいいのに。
「……たくさん出た」
「っ……」
 先輩はとろけた目をしながら、中から流れ出る感覚に耐えていたようだった。しばらく放心していたが、我に帰って上半身を起こした。
「…………」
 何かを言おうとして口を開くも、言葉に迷っているようだった。
 俺は先輩の手を勝手に取って絡ませる。先輩は少し顔を上げて、俺の目を見た。
「……ルイくん」
「はい」
「……なんで、寝てる時に……」
「すみません」
「……生、だし……ぅ……」
「怒ってますか?」
 先輩は俯いて黙った。
 先輩の手を握る手に力を込める。こちらをそっと見上げた。
「怒って……ぅ……」
 声が尻すぼみになって消えていく。たっぷり時間をかけてまたぼそぼそと言葉が続く。
「お、起きてる時に……言ってくれたら……、その、する……のに……」
「じゃあ今度からはそうしますね」
「っ……!」
 先輩はまた顔を伏せてしまった。
 本当に流されやすくて押しに弱い。
(かわいい)
 かわいそうで、かわいい。もっとかわいそうであってほしいと思う。
 先輩の魂が悲惨であればあるほど、それを肯定する俺の魂が綺麗になるような気がする。
 もう片方の手で先輩のお腹をさすってみる。ここに、自分のものを注いだと思うと興奮した。
「中にまだ残ってますか? 俺の」
「ぅ、♡」
「綺麗にしてあげます」
 脚を割り開いて、指を挿入しようとする。先輩は身体を捩って俺の手から逃れて、ベッドの上でごろんと転がった。
「いい、しなくていい……!」
「やってあげますよぅ」
「っ……お風呂、借りたい」
 今度は勢いよく上半身を起こして、よたよたとベッドから降りていった。
 先輩の香りが残った場所に寝転がって目を閉じた。浴室からうっすらと聞こえてくる水音が心地よかった。